氷の上に甘海老と帆立が並び、横の器に刺身が盛られている。奥に市場の通りと買い物の人。金沢の市場の売り場をイメージした生成ビジュアル(実際の現地写真ではありません)

近江町市場は、1721年から加賀藩前田家の御膳所として始まった市場です。300年前に藩へ魚と野菜を納めていた場所が、いまも約170の店が入る「市民の台所」として続いています。歩いて数分のところには、外から中が見えないように作られた茶屋街があります。
ひとりで、朝から半日だけ歩きました。金沢駅の東口から市場までは徒歩12分です。

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1721年の御膳所が、いまも約170店の「市民の台所」

近江町市場のアーケードには、鮮魚、野菜、果物の専門店や飲食店、約170の店が軒を連ねています。物販の店はおおよそ9時から16時ごろで、時刻は店によって違います。飲食店はもっと遅くまで開いている店もあります。

市場の通りに発泡の箱とクレートが積まれる

市場の通りに発泡の箱とクレートが積まれる。前掛けの人が魚をさばき、買い物客が両側の店を見ていく。開いて売るための市場の通りをイメージした生成ビジュアル

始まりは1721年、加賀藩前田家の御膳所としてでした。藩の台所に納めるための市場が、そのまま市民の買い物の場になっています。「市民の台所」という呼び名は観光地になってから付いたものではなく、300年ぶん同じ用途を続けてきた結果です。

買ったものを、その場で立って食べました。甘えびは殻を剥いたものが皿に並んで出てきて、冷たく、噛むと最初に甘さが来ます。塩気はあとから追いかけてきます。のどぐろは炙りで、脂が唇に残ってしばらく消えません。座る場所を探さなくていいのは、ひとりで来たときに助かります。

皿に刺身が盛られ、横に湯呑みと醤油の小皿

皿に刺身が盛られ、横に湯呑みと醤油の小皿。奥は市場の台と行き交う人で、座ったまま通りが見える。市場の中で出される一皿をイメージした生成ビジュアル

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市場から尾山神社へ。明治8年の神門は和漢洋が一つに混ざっている

尾山神社は、加賀藩祖・前田利家公と正室お松の方を祀る神社です。

神門は明治8年の建築で、全国的にも珍しい和漢洋の三つの建築様式が一つに使われています。三層造りで、木造の架構で支えられています。三層目の大きな窓に嵌まっているのがギヤマン——色ガラスで、光が通ると色がつきます。国の重要文化財に指定されたのは昭和25年8月29日です。

てっぺんには、日本現存最古の避雷針が施されています。新しい様式と新しい技術を一度に載せた門です。混ぜたことを隠していないのが、この門の見どころです。

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暗がり坂を下りる。市場から神社の境内を抜けて川へ出る道

暗がり坂は、近江町市場から金沢蓄音器館や泉鏡花記念館、さらに久保市乙剣宮の境内を抜けて主計町へと続く石段です。市場と川をつなぐ道が、神社の境内を通っています。この一本を知っていると、市場から茶屋街まで表通りに出ずに歩けます。

昼間でも少し薄暗い坂です。上は街なかなのに、下りるにつれて光が減り、下りきると浅野川と茶屋街が現れます。名前のとおりで、下りるあいだは足元ばかり見ていました。

出格子の細い木が並んでいて、隙間から中は見えません。見えないように作られています。市場の開けっぴろげさと正反対の作法が、歩いて数分の距離にあります。

塀にはさまれた細い坂道

塀にはさまれた細い坂道。格子の町家が続き、人ひとりがようやく通る幅で、上から葉が落ちてくる。外から見えないように閉じた小路をイメージした生成ビジュアル

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主計町は、平成11年に全国で初めて旧町名が復活した街

主計町の名は、加賀藩士・富田主計の邸地があったところなので、この名がついたといわれています。人の役職名が、そのまま街の名前になっています。

この町名は一度、地図から消えました。復活したのは平成11年(1999年)10月一日で、全国で初めて旧町名が復活した街になりました。復活当初は0.88ヘクタール、約30世帯。平成16年(2004年)5月一日に区域が広がっています。

町並みのほうは、平成20年6月9日に国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されました。面積は約0.6ヘクタール。明治期に茶屋町として成立し、明治後期から昭和初期にかけて3階建てに増築されています。前を流れる浅野川と相まって景観をつくっていて、河畔に成立した茶屋町の特徴を伝える、国内でも数少ない町並みだとされています。

建物が残っていても、呼び方が変われば別の場所になります。それを住民のほうが先に形にした街です。

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帰りに鼓門。高さ13.7メートル、能楽の鼓の形

金沢駅の鼓門は高さ13.7メートル。二本の太い柱で支えられていて、形は金沢で盛んな能楽の鼓をかたどっています。その先のもてなしドームは、雨や雪の多い金沢で「駅を降りた人に傘を差し出す」という考えから作られた、幾何学模様のガラスの天井です。

この日見たのは、約170店が並ぶ市場と、和漢洋を混ぜた門と、外から見えない格子と、傘の形をした駅でした。金沢は工芸の街だと言われますが、器や織物だけの話ではありません。門の層の数も、格子の隙間も、駅の門の高さも、人が寸法を決めています。

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この街の歩き方

JR金沢駅兼六園口(東口) → 近江町市場徒歩12分
近江町市場の物販九時〜16時ごろ(店により異なる)
近江町市場約170店
暗がり坂近江町市場 → 久保市乙剣宮の境内 → 主計町
主計町伝統的建造物群保存地区約0.6ヘクタール
金沢駅 鼓門高さ13.7メートル

物販の店が九時から十六時ごろなので、市場は午前中に済ませます。そのあと尾山神社の門、暗がり坂、主計町とつなぐと、開いて売る作法から、外から見えないように閉じる作法へ、歩きながら順に切り替わります。鼓門は帰りに明るいうちに見ると、二本の柱の太さが分かります。