皿に霜の入った赤身が扇に並ぶ。横に塩の小鉢と炭の火。都城の肉をイメージした生成ビジュアル(実際の現地写真ではありません)

都城市の農業産出額は令和6年で920.7億円、全国2位。うち豚が314.7億円、肉用牛が211.7億円で、この2部門はどちらも全国1位だ(農林水産省・市町村別農業産出額推計)。焼酎のほうも、市内に本社を置く霧島酒造が創業1916年、2024年度の売上525億円。肉と焼酎の街というのは、看板の文句ではなく統計の話だった。ひとりで車を出して、その数字の出どころが見える場所を順に回った。

01

1185年の館から始まる街。都城島津邸は入館16時30分まで

都城島津邸は都城市早鈴町18-5。開館は9時から17時で、入館は16時30分まで。月曜休館だ。敷地には本宅と石蔵が残り、石蔵はカフェとして営業している。

島津の名がこの土地から始まっていることが、ここの前提になっている。文治元年(1185年)8月、源頼朝は惟宗忠久を島津荘の下司職に任命した。忠久は祝吉に館を造って移り住み、その跡地には現在「祝吉御所」の顕彰碑が立つ。

領主の館があって、その周りに街ができる。地方都市の多くがこの形だ。ただ都城の場合、館の側と、いま産業が動いている場所が一致していない。庭を歩いた。落ちた葉が掃き寄せられて、敷地の端に寄せてあった。

02

蔵の敷地では、産業が匂いで分かる。工場見学は要予約・最終15時30分

焼酎の里 霧島ファクトリーガーデンは都城ICから車で15分、宮崎空港から45分。敷地にはレストラン、ショップ、ベーカリー、ミュージアムが並ぶ。

工場見学はインターネットからの事前予約が必要で、開始は10時、11時、13時30分、14時30分、15時30分の1日5回、所要約60分、参加費は無料だ。つまり16時に着いた時点で、その日の見学はもう終わっている。予約を取らずに向かうと、外を歩いて帰ることになる。実際そうなった。

敷地に入った瞬間に匂いが分かる。甘いような、酸っぱいような匂いだ。芋蒸しは時期や時間によっては稼働していない場合があると公式に案内されているので、匂うかどうかは行った時間によって変わる。ぼくの国のワイン産地でも、収穫期には街全体がぶどうの匂いになる。産業の匂いが街の匂いになる場所は、世界のどこでも同じ構造をしている。

03

さつまいも3,600ヘクタール。原料の規模が街の規模を決めている

霧島酒造が1年間に仕込むことができるさつまいもの量は100,000トン。契約栽培のさつまいもの栽培面積は3,600ヘクタールで、公式サイトは東京ドーム770個分と書いている。米は年間20,000トンで、うち半分が宮崎県産だ。輸出は25カ国。

畑の向こうに牛のいる草地が続く

畑の向こうに牛のいる草地が続く。畝のあいだで作業する人がいて、奥に山並みが低く横たわる。数字の出どころになる土地をイメージした生成ビジュアル

この規模の原料を、蔵のある街の周りで確保しているという構造が、豚と肉用牛の全国1位と同じ地図の上に重なっている。飲むものと食べるものが、同じ平野から出てくる。

割った蒸かし芋を手が持つ

割った蒸かし芋を手が持つ。黄色い中身から湯気が上がり、皿にもう半分が置かれている。蔵の原料になる芋をイメージした生成ビジュアル

04

肉が動詞になっている。「道の駅」都城NiQLL

都城市都北町に「道の駅」都城NiQLL(ニクル)がある。国土交通省宮崎河川国道事務所と都城市が整備を進めた施設で、令和5年4月22日にリニューアルオープンし、同年11月11日にグランドオープンした。物産・交流・観光・防災の4つの機能を持つ。

中身は、地場産品の直売所と、カフェ4店舗、レストラン1店舗。カフェはそれぞれIMO(芋)、FRUITS(フルーツ)、SHOCHU(焼酎)、NiQ(肉)がテーマになっている。ほかに木のゆうぐ広場、多目的室、燻製設備を備えたキッチンスタジオ、屋根付きのイベント広場。地場産品の販売は「日本一の肉と焼酎」が中心に据えられている。

面白いのは愛称のほうだ。NiQLLは「肉を楽しむ=肉する=肉る」からの造語だと市が説明している。買いに来る、食べに来る、遊びに来る——来店の動機を「〇〇ニクル」という形にした店で、掲げている言葉は「ミンナ ココニクル」。選定理由には、肉を容易にイメージさせ、独自性・地域性に合うことが挙げられている。

統計が建物の名前になり、その名前が動詞として活用している。ぼくはこれまでいくつもの産地を回ってきたが、産物が動詞になっている街は初めてだった。レストランは「キッチンGranma」で、市の公式ページは「肉を中心とした都城の食材を味わえる」と書いている。

街の肉屋のほうも市の公式に出ている。株式会社福島精肉店、屋号は「口福のお肉 肉のふくしま」。市のページは「明治40年創業のまちの肉屋」と紹介していて、宮崎牛肉、豚肉、豚肉を使った加工品、惣菜などを扱う。いまはネットショップの事業者として市の紹介ページに載っている。

豚314.7億円、肉用牛211.7億円。その数字は、直売所の棚と、道の駅の名前と、明治から続く肉屋の屋号になって街に出ている。

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標高472メートルの金御岳。盆地の形が、そのまま産地の形だ

金御岳公園は都城市梅北町11449-60。標高472メートルの金御岳から、都城盆地と霧島連山を一望できる。

着いたときはまだ明るく、盆地の形がよく分かった。四方を山に囲まれて、真ん中が平らだ。その平らな部分が、さきほどの数字が出てくる範囲になる。日が落ちるにつれて盆地に灯りが入りはじめ、点が増えていく。街がどこで終わるかが灯りで分かる。暗いままの部分が山だ。

10月に来る理由もここにある。秋に南へ帰るサシバの渡りを観察できる場所で、毎年10月の観察会には全国各地から人が集まる。秋から春にかけては盆地特有の朝霧が発生しやすく、雲海に浮かぶ霧島連山が見える日もある。同じ盆地の形が、夕方は灯りの輪郭として、朝は霧の底として現れる。

暗くなってから下りるので、明かりは持っていったほうがいい。携帯の明かりでは足元しか照らせず、下りは行きより時間がかかった。

高台から見下ろす盆地

高台から見下ろす盆地。真ん中が平らで、四方を山が囲む。手前のガードレール沿いに人が立つ。盆地の形が見える高台をイメージした生成ビジュアル

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この街の歩き方

都城島津邸(早鈴町18-5)9:00〜17:00・入館16:30まで・月曜休館
都城IC → 霧島ファクトリーガーデン車で15分
宮崎空港 → 霧島ファクトリーガーデン45分
金御岳(梅北町11449-60)標高472メートル・都城盆地と霧島連山
「道の駅」都城NiQLL(都北町)直売所・カフェ4店舗・レストラン1店舗
都城市の農業産出額(令和6年)920.7億円・全国2位/豚314.7億円・肉用牛211.7億円でいずれも全国1位

工場見学の最終回が15時30分なので、そこを軸に前後を組む。午前から昼に蔵の見学を入れ、16時30分までに都城島津邸を回り、暗くなる前に金御岳へ上がると、盆地の形が見えているあいだに着ける。数字を先に見てから盆地を見下ろすと、見えている平野の意味が変わる。