白い身を薄く引いて皿いっぱいに円く並べてある。中心に薬味、横に小鉢とすだち。奥は市場の売り場。下関のふぐ刺しをイメージした生成ビジュアル(実際の現地写真ではありません)
下関はふくの取扱量が全国一の街で、その荷が集まる唐戸市場は関門海峡に面して建っている。市場で皿を持って食べ歩けるのは毎日ではなく、金・土・日・祝だけだ。そして海峡沿いには、そのふくの銅像を置いた神社と、明治の煉瓦の領事館と、海に向いて立つ社が一列に並ぶ。ぼくはひとりで、朝の3時間だけを持ってこの一列を歩いた。
食べ歩きは金・土・日・祝だけ。まず曜日から決める
唐戸市場(下関市唐戸町5-50)は卸売市場で、開市は午前3時。観光客が皿を持って歩ける「活きいき馬関街」は、毎週金・土・日・祝だけの開催だ。平日も市場は動いているが、並ぶのは鮮魚と加工品で、握りやふく汁の屋台は出ない。屋台に出るのは約25の水産物販売店で、店ごとに出すものが違う。終了の時刻は仕入れの状況で前後する。曜日を確かめないまま来ると、ここは目的地にならない。
建物に入ると、発泡スチロールの箱が積まれ、そのあいだを通る。床が濡れていて、長靴の音がよく響いた。市場で朝ごはんを食べる習慣はぼくの国にないので、まず作法を見るところから始めた。
皿を持って歩き、店ごとにその場で払う
1階に、寿司とふくの薄造りを売る店が並ぶ。パックで売る店と、皿に一貫ずつ載せてくれる店がある。会計は出口で一度ではなく、載せてもらった店ごとにその場で払う。前の人の手つきを見れば、それだけで分かる。

市場の中のケースに寿司と切り身が並ぶ。皿を手にした人が店ごとに足を止めていく。皿を持って回る市場をイメージした生成ビジュアル
ふくの薄造りは、下の皿の模様が透けるほど薄い。一切れ目は味が薄く、魚の味より食感のほうが強い。噛んでいるうちに、あとから甘みが出てくる。ふくの取扱量が全国一の街だから、これは特別な一皿ではなく、朝の屋台に普通に並ぶ商品として置かれている。

皿を両手で受け取ったところ。薄く引いた身が下の絵柄を透かし、横に醤油の小鉢と箸が置かれている。その場で受け取る一皿をイメージした生成ビジュアル
外のベンチは海峡を向き、対岸は九州
屋台の列を抜けて外に出ると、正面が関門海峡だ。対岸がはっきり見える。向こうが九州で、こちらが本州。貨物船と渡船が次々に通り、視界のなかに必ず船がいる。いま食べた荷も、目の前の水の上を通ってきている。

海峡沿いの遊歩道にベンチが並ぶ。腰かけて食べる人、水を見る人がいて、沖を船が通る。海峡を向いたベンチをイメージした生成ビジュアル
亀山八幡宮は貞観元年の創建、境内に世界最大のふくの銅像
市場の建物を離れると、床の濡れた通路から一転して、車の走る海沿いの道になる。魚のにおいが切れる場所がはっきりあって、そこから先は観光の通りだ。海峡沿いに歩き、石段を上ると亀山八幡宮。貞観元年(859)創建の古社で、「関の氏神」と呼ばれる。境内には世界最大のふくの銅像があり、亀山砲台跡と林芙美子の文学碑も同じ境内に立つ。
食べるふくと、祀られるふくが、同じ海峡沿いの数百メートルのあいだに並んでいる。街の産業が、そのまま境内に置かれている。ぼくの国の教会では起きないことだ。
旧下関英国領事館は明治39年の建築、入館は無料
海沿いをもう少し進むと、煉瓦造りの旧下関英国領事館が建つ。明治39年(1906)の建築で、領事館として使う目的で建てられた建物としては日本で現存最古のものだ。平成11年に重要文化財に指定された。開館は午前9時から午後5時、入館は無料なので、市場で食べてから歩くとちょうど開いている。
煉瓦の色は場所によって濃さが違い、角のあたりだけ沈んで見えた。英国が領事館を置いた岸に、ふくの荷が集まる市場と社が並んでいる。この順に見ると、港の側が静かになったあとも建物の寸法だけが当時のまま残っているのが分かる。
赤間神宮の水天門は竜宮造り、海に向いて立つ
最後は赤間神宮(下関市阿弥陀寺町4-1)。御祭神は第81代安徳天皇で、壇ノ浦の合戦に敗れ、8歳で関門海峡に入水したと伝わる。海峡を望む水天門は鮮やかな竜宮造りで、国の登録有形文化財に登録されている。
門をくぐって振り返ると、門の枠のなかに海峡が入る。海を背にするのではなく、海を見せる向きに建っている。市場も、神社も、領事館も、この社も、全部が同じ水を向いている。朝に市場から始めると、街が何で成り立っているかが最初の1時間で並んで見える。
この街の歩き方
| 唐戸市場「活きいき馬関街」 | 金・土・日・祝のみ開催(卸売の開市は午前3時) |
|---|---|
| 唐戸市場(唐戸町5-50) | ふくの取扱量が全国一の下関の市場 |
| 唐戸市場 → 亀山八幡宮 → 旧下関英国領事館 | 海峡沿いに一列に並ぶ |
| 旧下関英国領事館 | 午前9時〜午後5時・入館無料 |
| 赤間神宮(阿弥陀寺町4-1) | 水天門は竜宮造り・国の登録有形文化財 |
屋台は仕入れ次第で早く終わるので、開催曜日(金・土・日・祝)を確かめて市場を最初に置きます。領事館の開館は午前9時なので、市場で食べてから海峡沿いに歩くと、着いた時刻に開いています。
