カウンターの向こうで店主が皿を置く。背の棚に瓶が並び、鍋から湯気が立つ。赤坂のカウンターの店をイメージした生成ビジュアル(実際の現地写真ではありません)

赤坂駅と赤坂見附駅のあいだに、一ツ木通りという一本の通りがある。徳川家康が江戸を開く前、赤坂一帯は原野で、人馬を継ぐ宿場があった。そこから「人継(ひとつぎ)村」と呼ばれ、その名が今も通りの名として残っている。今回はひとりの出張で、夜の2時間と翌朝の駅までの時間を、この一本の通りだけに使った。

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通りの名は宿場から。赤坂という地名のほうは、坂の上の草から来ている

港区の記録では、江戸開府前の赤坂一帯は原野で、人馬を継ぐ宿場があったことから人継村と呼ばれた。その名を継いでいるのが、赤坂駅と赤坂見附駅のあいだの一ツ木通りである。

赤坂という地名にも由来がある。坂の上に茜草(あかねぐさ)が生えていたため「赤根山」と呼ばれ、赤根山にのぼる坂を赤坂と称するようになった、と港区は説明している。染物屋が坂に赤い絹を干したからという別の説も併記されている。街の名が坂から、通りの名が宿場から来ている。歩く前にこれだけ知っておくと、上り下りのある区画が意味を持って見えてくる。

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明治の中頃に商店会ができ、およそ100年続いた。飲み屋街ではなく商店街だった

一ツ木通りに商店街の組織ができたのは明治の中頃で、名前は「一ツ木共商会」だった。以来およそ100年にわたり商店街活動が続いてきたと、商店街振興組合の理事長が港区の記録で述べている。明治維新のあと国会議事堂の建設が進み、武家屋敷の街が商業地に変わっていった時期にあたる。

つまりこの通りは、繁華街としてつくられたのではない。生活のための商店街が、あとから繁華街になった。歩くと、間口の狭い店が肩を寄せるように続き、看板が縦に積まれている。

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昭和30年、民放テレビ局が開局。精肉店と鮮魚店の通りが変わった

港区の記録によれば、昭和30年に民放テレビ局が開局し、一ツ木通りは政治家・官僚・芸能人でにぎわうようになった。それ以前に並んでいたのは、精肉店や鮮魚店など生鮮食品と生活必需品を売る店である。

食べるものを買う通りから、食べさせる通りへ。夜に歩くと、1階が飲食店でその上に事務所が入る建物が続く。光は足元の敷石まで届き、人は片側に寄って流れていく。

雨上がりの夜の通り

雨上がりの夜の通り。路面が店の明かりを長く映し、人が両方向へ歩いていく。夜の通りをイメージした生成ビジュアル

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昭和45年以降、生活密着型から広域型へ。ひとりで入れる店が多いのはこの性格

港区の記録は変化の時期も押さえている。昭和45年以降、ビルが一気に増え、商いの形態が「生活密着型」から、遊びや観光で訪れた人が買い物をする「広域型」へ変わった。

外から来た人を前提にした通りなので、ひとりで入っても浮かない。カウンターのある店に入り、厨房の正面に座った。手元が見えるので、待っているあいだも見るものがある。会食向けの座敷を持つ店とは、入口の作りからして違う。入口から先客の座り方を見れば、どちらの店かは判断できる。

カウンターに置かれた皿に、仕上げたひと品

カウンターに置かれた皿に、仕上げたひと品。手前の席の縁に片手が置かれ、奥の棚に器が重ねてある。ひとりで座るカウンターをイメージした生成ビジュアル

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角を一つ曲がると、靴の音が聞こえる

外に出ると、通りの人の数が入ったときより減っていた。1階の飲食店の灯だけが残り、上階の事務所の窓が暗くなると、通り全体の光量が落ちる。

角を一つ曲がるだけで、自分の靴の音が聞こえるようになる。赤坂は、広域型の繁華街と事務所ビルの街が同じ区画に重なっている。夜の静けさは、その重なりのずれから生まれている。

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朝にもう一度歩くと、同じ通りが商店街に戻る

翌朝、同じ通りを駅へ向かって歩いた。夜に開いていた店のシャッターが下りると、通りの奥行きがそのまま見える。最寄りは千代田線の赤坂駅と、銀座線・丸ノ内線の赤坂見附駅で、通りはその二つのあいだにある。どちらへ抜けても駅に着くので、朝は夜と逆向きに歩くと、同じ道を2度違う顔で使える。

夜は「飲食店が並ぶ通り」に見えていたものが、朝は「宿場から商店街になり、繁華街になった通り」に見える。同じ道でも、来歴を一つ知っているかどうかで見え方が変わる。

朝の同じ通り

朝の同じ通り。シャッターが下りたままの店が並び、荷を下ろす人、出勤の人が通り過ぎる。朝に戻った通りをイメージした生成ビジュアル

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この街の歩き方

千代田線 赤坂駅 → 一ツ木通り通りは赤坂駅と赤坂見附駅のあいだ
銀座線・丸ノ内線 赤坂見附駅 → 一ツ木通り同じ通りへ反対側から入る
夜の一ツ木通り1階の飲食店が開く時間帯に歩く
翌朝の一ツ木通り駅へ向かう道として逆向きに歩く

夜と朝で同じ通りを逆向きに歩くと、飲食店の通りと商店街の通りという二つの顔を一往復で見られます。徒歩時間は公式に確認できるものがなかったため記載していません。二つの駅が通りの両端にあたるので、到着と出発で別の駅を使うと通りを丸ごと通れます。