屋根のあるアーケードで、古着のラックと本棚のあいだを歩いていた人が振り返る。連なる提灯と店の灯りが、磨かれた床に映りこむ。本と古着のアーケードをイメージした生成ビジュアル(実際の現地写真ではありません)

熊本の上通は、通町筋から並木坂まで全長586メートル、道路幅10.9メートル。レストランやブティック、宝飾店、雑貨店、カフェなど約170店が屋根の下に並び、その屋根が切れた先が並木坂です。屋根があるかないかで、店の種類も歩く速度も変わる一本の道でした。ひとり旅に慣れていないわたしは混んだ店に入るのが苦手なので、午後の空いた時間をこの一本だけに使いました。

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入口は電停の正面。美術館は商業ビルの三階にある

熊本市現代美術館は上通町2番3号、びぷれす熊日会館の3階にあります。通町筋の電停またはバス停から徒歩1分、電車通り側のエスカレーターかエレベーターで3階へ上がる作りです。独立した建物ではなく商業ビルの一階層なので、買い物の途中に寄れます。

開館は10時から20時(展覧会入場は19時30分まで)、休館日は毎週火曜と年末年始です。企画展示室は観覧料が必要ですが、美術図書館のホームギャラリーやまちなか子育てひろばは無料で使えます。分からない作品の前にどれだけ立てばいいのか、わたしはいつも決められません。無料のフロアを先に歩いて、床の固さと靴の音に慣れてから通りに出ました。

屋根のあるアーケード

屋根のあるアーケード。古着のラックを繰る人、店先の棚で立ち読みする人、本を積んで運ぶ前掛けの店員がいて、磨かれた床に店の灯りが映る。屋根のあるアーケードをイメージした生成ビジュアル

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道路幅10.9メートル、天井は白一色。足元には木が敷いてある

アーケードに入ると、天井が高く白一色で、光が均一に落ちてきます。上通商栄会は、この天井をパリのオルセー美術館のイメージで設計したと説明しています。

足元には南米産のウッドデッキ材「イペ」が敷き詰めてあります。1998年にアーケードとともに設置されたもので、上通が1925年に熊本で初めて木煉瓦を敷いた通りだったことから着想されています。焦げ茶の木は白い天井の下で低く沈んで見えて、靴の音も石畳より鈍い。どこまで来たのかが分かりにくい代わりに、歩き心地で距離を測る通りです。

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学生が集まった通りだから、書店と文具店と画廊が多い

上通は藩政時代には下級武士の屋敷地帯で、戦前は小者の家が多く、旧制五高や工専の学生で賑わいました。その面影で、いまも書店や文具店、画廊が集中しています。規模は下通に次ぐ二番目です。

同じ業種が固まっていないので順番に意味がないように見えますが、本と紙と絵の店が繰り返し現れるのは偶然ではありません。約170店の並びを、その三つを数えながら歩くと、通りの性格がはっきりしてきます。

本を並べた店先にしゃがんで背表紙を追う人、古着のラックを見る人、軒下で話す二人がいる

本を並べた店先にしゃがんで背表紙を追う人、古着のラックを見る人、軒下で話す二人がいる。歩道には落ち葉が吹き寄せられている。本と古着の店先をイメージした生成ビジュアル

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明治22年の書店には、店主と話さずに本を選べる時間がある

長崎書店は上通町6番23号、アーケードのほぼ中央にあります。明治22年(1889年)に上通町へ開いた支店が始まりで、本店の長崎次郎書店は明治7年に新町で開業した書籍・文具商です。1877年の西南戦争で全焼したのち復興し、2006年と2021年に改装しています。紙と床の木のにおいが混ざる、明るい店でした。

有人営業は11時から19時。そのほかに無人営業の時間が、9時30分から11時と19時から22時にあります。混んだ店に入れないわたしには、この時間帯がいちばんありがたい。店内に併設したギャラリースペースと、ビル3階の元倉庫を改装した「リトルスターホール」では、展覧会やトークイベント、ミニライブが開かれます。棚を見たあと、そのまま展示に入れます。

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アーケードが切れる。屋根がなくなって、古着屋と古書店に変わる

並木坂は、上通アーケード街の終点から北へ延びる通りです。屋根がなくなって空が見え、歩道に植えられた並木が続きます。均一だった光が斜めから当たるようになり、店の看板は片側だけ明るい。屋根の下でこもっていた音が、外に出たとたんにほどけます。

店の顔つきも変わります。若者向けの古着屋やCDショップ、レストランや居酒屋、コンビニが並ぶ一方で、老舗の和菓子屋や文房具店、古書店、昔ながらの喫茶店が混じります。横道に入ると個性的なケーキ屋や輸入雑貨店もあります。通町筋の電停からここまで徒歩約6分、昼も夜も賑わう区間です。一軒ずつが小さく、扉が閉まっている店が多いので、わたしは古着屋を一軒だけ選びました。狭くて、ハンガーを一枚動かすたびに金属の音がします。

上通だけならどこの街にもある商店街に見えて、並木坂まで出ると熊本の通りになります。アーケードの端で引き返さないでください。

ハンガーに吊るされた古着が並び、コーデュロイの毛足とデニムの織り目が間近に見える

ハンガーに吊るされた古着が並び、コーデュロイの毛足とデニムの織り目が間近に見える。奥は木の床の店内。古着のラックをイメージした生成ビジュアル

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この街の歩き方

市電水道町電停 → 宿徒歩3分
宿のある水道町 → 上通の入口の通町筋市電で隣の電停
通町筋電停 → 熊本市現代美術館(びぷれす熊日会館3階)徒歩1分
上通アーケード(通町筋〜並木坂)全長586m・道路幅10.9m・約170店
通町筋電停 → 並木坂徒歩約6分
熊本市現代美術館10時〜20時(展覧会入場は19時30分まで)・毎週火曜休館
長崎書店有人11時〜19時/無人9時30分〜11時・19時〜22時

美術館は毎週火曜が休館で、開いている日は20時まで。火曜以外の午後なら先に3階へ上がれます。長崎書店の有人営業は19時までなので、通町筋から北へ歩いて書店を挟み、徒歩約6分の並木坂まで出れば、屋根のある区間と屋根のない区間の差が一度で分かります。