織機の上を近くから見通す。藍と金の経糸が何百本も平行に奥へ走り、張りも間隔も狂いがない。手前では文様が出かけた絹が織りかけで止まり、金糸を巻いた杼が横に置かれている。京都・室町の織りの仕事をイメージした生成ビジュアル(実際の現地写真ではありません)
京都の室町通は、繊維の卸が集まる通りだ。京都織物卸商業組合は自らを「京都の室町通りを中心とした繊維卸会社で組織され」た組合と説明していて、その住所は四条通室町東入の函谷鉾町にある。街の名前が、祇園祭の鉾の名前になっている。布に関わる仕事に興味があり、台湾でも染めや織りの工房を訪ねたことがある。今回は工程が分かれている側を、四条から半日で見た。
室町通に並ぶのは工房ではなく卸。一枚の着物に、およそ20の工程がある
室町通に入ると、間口の狭い建物が並ぶ。看板に屋号が出ていて、読みながら進んだ。
ここに並ぶのは、布を織る工房ではない。卸だ。作る場所と、売る場所が別になっている。京友禅振興協議会の説明では、京友禅は「図案から下絵、挿し友禅など」それぞれに専門の業者・職人を配す完全分業制で、一枚の着物が完成するまでにおよそ20の工程がある。絞り加工などを施すと、完成までに1年かかることもある。
20に分かれた工程は、どこかでつながなければ一枚にならない。一本の通りに卸が集まるのは、そのつなぎ役が要るからだ。通りの幅に対して建物が高いので、足元にはずっと影が落ちていた。戸が開いている家の前を通ると、中の暗さが四角く見える。

通りの幅に対して建物が高く、路面にも歩道にもずっと影が落ちている細い通り。間口の狭い家が両側に並び、開いた戸の奥は四角く暗いだけで中が見えない。布を抱えて歩く人が遠くにいる。作る場所と売る場所が分かれている通りをイメージした生成ビジュアル
一本西へ入って新町通を南へ。綾小路の角に、呉服商の家が残っている
室町通から西へ一本入ると新町通になる。そこを南へ下り、綾小路通との角まで来ると杉本家住宅がある。住所は下京区綾小路通新町西入ル矢田町116。
呉服商「奈良屋」を営んだ杉本家の町家だ。棟札によれば、明治3年(1870年)4月23日の上棟。2010年6月に国の重要文化財、2011年2月には建物内外の庭が「京町家の庭」として国の名勝に指定されている。間口30メートル、奥行52メートルの敷地に主屋が建ち、町家としては市内最大規模だという。
構造は表屋造り。表通りに面する店舗部と、裏の居室部を取合部でつないでいる。外から見ると一軒の家だが、中で商いと住まいが分けられている。工程の分け方が、建物にも入っている。
そして祇園祭では、この家が当町・伯牙山のお飾り場になる。呉服商の家が、山鉾を出す街の家でもある。一般公開は1人2,000円、3月・5月・7月の期間は2,500円。月曜と火曜は完全休館で、公開日は公式サイトで告知される(2026年9月確認)。
室町通を北へ戻る。蛸薬師を下ったところに、1869年開校の小学校が建っている
新町通を北へ戻り、室町通に入り直して蛸薬師まで上がる。京都芸術センターがある。住所は中京区室町通蛸薬師下る山伏山町546-2。ここも町名が山鉾だ。
建物は1869年に開校した明倫小学校で、1993年の閉校後、2000年に京都芸術センターとして開いた。いまの校舎は昭和6年竣工の学校建築だ。木の廊下を歩くと音が響く。板が少し沈み、足を止めると音も止まった。
教室がそのまま制作室になり、新進・若手のアーティストに無償で提供されている。ギャラリーと図書室、情報コーナーは10時から20時、入場は無料。図書室の蔵書は約5,500点。制作室は22時まで開いている。
卸の通りの真ん中に、作る場所が一つだけ開いている。

古い校舎の長い板張りの廊下。片側に背の高い木枠の戸が並び、教室が制作室として使われている。床板はすり減って少し沈み、木目が浮いて釘の頭が平らになっている。奥に人が一人立つ。教室がそのまま作る場所になっている建物をイメージした生成ビジュアル
三条通烏丸へ。1555年創業の店が、明治に商いを友禅へ移した
室町通をさらに北へ上がって三条通へ出ると、千總本店がある。中京区三条通烏丸西入御倉町80。千總は1555年に法衣装束商としてこの烏丸三条で創業し、明治に入ると、商いの主軸を友禅染めに移した。日本画家に下絵を依頼している。
2階の千總ギャラリーは10時から17時、水曜が休み。ギャラリー1では所蔵品を年に4回程度テーマごとに、ギャラリー2では現代の作家の作品を千總のキュレーションで展示している。所蔵品と現代作品が、同じ階に並ぶ。
友禅は、織るのではなく布に模様を描いて染める技法だ。ゴム糊を絞り出して下絵の通りに描くのを「糸目」といい、その内側に色を挿していく。糊を落としたあと、糸目は白い線として残る。近くで見ると線が細い。顔を近づけると、白い線がわずかに盛り上がって見える。
創業から友禅への転換まで300年以上ある。扱うものを替えて、店の側が続いた。

染めた絹を近くで見る。細く白い線が植物の形を縁取り、囲まれた面が一色ずつ埋まっている。白い線はわずかに盛り上がって、太さが均一だ。一色だけがいま置かれたばかりで、縁がまだ濡れて暗い。糊の跡が白い線として残る染めをイメージした生成ビジュアル
分かれているから続いた
この日歩いたのは、卸の通り、呉服商の町家、元小学校の制作室、染めの店だった。ひとつの布の仕事が、これだけの場所に分かれている。
台湾で訪ねた工房は、最初から最後までを一つでやることが多かった。同じ布の仕事でも、担い手の分け方が違う。20に分かれていれば、一つが欠けても残りが続く。分かれ方そのものが、通りの並びに出ている。
この街の歩き方
| 四条室町 → 新町通を南へ・綾小路(杉本家住宅) | 一般公開 1人2,000円(3月・5月・7月は2,500円)/月火は完全休館 |
|---|---|
| 綾小路新町 → 室町通を北へ・蛸薬師(京都芸術センター) | ギャラリー・図書室・情報コーナー10:00〜20:00/入場無料 |
| 蛸薬師室町 → 三条烏丸(千總本店2階 千總ギャラリー) | 10:00〜17:00/水曜休 |
杉本家住宅は公開日が限られるので、先に公開日を押さえてから残りを組む。千總ギャラリーが17時で閉まるため、いちばん北のここを最後に置くと、南から北へ一方向で歩ける。室町通と新町通は一本違いなので、行きと帰りで別の通りを通れる。
