よく晴れた日の、静かな山の湖。手前の岸は淡い石と葦の線で、その先の水面は平らな暗い青緑。対岸の色を逆さまに映している。芦ノ湖の北岸をイメージした生成ビジュアル(実際の現地写真ではありません)

芦ノ湖の北岸で、見るために選ばれた岬(恩賜箱根公園)と、歩く人のために植えられた約500mの杉並木が隣り合っている──箱根を「見る場所」と「通る道」の違いからたどる
芦ノ湖の北岸には、見るために選ばれた場所と、通るために作られた道が隣り合っています。湖に突き出た半島の上に公園があり、その隣から約500mの杉並木が始まります。今回は高速道路のインターチェンジ横の宿を起点に、ひとりでこの北岸だけを歩きました。

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芦ノ湖に突き出た半島の上。明治19年、離宮がこの地形を選んだ

恩賜箱根公園は「塔ヶ島」と呼ばれる、芦ノ湖に突出した半島のかたちをした土地にあります。面積は15.9ha、入園は自由で無料です。湖畔展望館は朝9時から17時(最終入館16時30分)で、バス停「恩賜公園前」から徒歩すぐ、車の場合は普通車の駐車料金が平日500円、休日1,000円です。

離宮の建物がここに完成したのは明治19年(1886)7月。戦後の昭和21年(1946)5月5日に公園として開かれ、いまは誰でも入れます。

なぜこの地形が選ばれたのかは、湖畔展望館の2階のバルコニーに立つと見当がつきます。三方が水で、外輪山が湖を囲んで連なり、山の切れ目の向こうに富士山が入ります。10月の朝の空気では、稜線の輪郭がはっきりしていました。

木の茂った半島が、穏やかな広い湖へ三方を水にして突き出している

木の茂った半島が、穏やかな広い湖へ三方を水にして突き出している。手前の低い手すりに両腕をのせて水面を見る人、小さな荷を下ろしてしゃがむ人、少し離れて立つ二人。見るために選ばれた地形をイメージした生成ビジュアル

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公園の隣から約500m。1618年に植えられた杉は、日陰をつくるための木だった

公園の隣から、旧街道の杉並木が始まります。元箱根から恩賜箱根公園まで約500m。一歩入ると音が変わりました。杉が両側から迫って上が塞がり、砂利を踏む音だけが響いて、車の音が急に遠くなります。

背の高い太い杉が二列に並び、梢が頭上で合わさって空をほとんど塞いでいる

背の高い太い杉が二列に並び、梢が頭上で合わさって空をほとんど塞いでいる。幹は黒く、深い溝が走る。まっすぐな砂利道が遠くへ細くなっていく。歩く人のために植えられた道をイメージした生成ビジュアル

この杉は1618年(元和4)、幕命によって川越城主・松平正綱が植林したと伝えられています。目的は、街道を行く旅人を夏の強い日差しと冬の寒風から守ることでした。いまも樹齢400年近い杉が400本を越えて残り、国指定史跡として保護されています。

公園は見るために選ばれた土地で、この並木は歩く人のために作られた道です。約500mのあいだ、視界は開けるのではなく閉じていきます。砂利道は舗装に慣れた足には歩きにくく、一歩ごとに足首が使われました。

大きな老杉の根元を近くから見る

大きな老杉の根元を近くから見る。赤茶色の繊維質の樹皮が深く裂け、太い根が砂利に入っていく。繊維が一本ずつ摘めそうなほどはっきり見える。舗装に慣れた足には歩きにくい砂利道をイメージした生成ビジュアル

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石段は90段ほど。奈良時代の社は山側にあり、昭和の鳥居は水際にある

砂利道の先は、平らなままでは終わりません。箱根神社の正参道は、杉に囲まれた石段を90段ほど上がります。上がるにつれて周りが暗くなり、息が上がったころに社殿が見えました。この地に社が奉遷鎮斎されたのは奈良時代の末、天平宝字元年(757)、万巻上人によると伝えられています。

参拝を済ませて、湖のほうへ下ります。水際の赤い鳥居は平和の鳥居で、建立は昭和27年、上皇陛下の立太子礼と日本の独立(講和条約締結)を奉祝記念したものです。「平和」の扁額が掲げられたのは昭和39年、御鎮座1200年と東京オリンピック開催を奉祝記念してのことでした。

本体が山側にあり、入口が湖側にある。車で上から入ると、最後に入口へ下りることになります。1200年以上離れた社と鳥居が、この上下の動きで結ばれています。水の上の鳥居は思っていたより小さく感じました。背後の湖と外輪山が大きすぎるからです。

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湖ができたのは約3,100年前。外輪山はカルデラの縁

では、その湖と外輪山はどうしてこの形になったのか。芦ノ湖は箱根火山のカルデラの中にあるカルデラ湖で、周囲は約20kmあります。約3,100年前、大涌谷付近の噴火による土砂が仙石原を流れていた古い早川をせき止め、その上流に水がたまってできたものです。

展望館から見えた外輪山は、そのカルデラの縁でした。湖を囲んでいるように見える山は、湖をつくった窪みの壁です。三方に水がある岬も、そのくぼみの中の地形です。

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宿は箱根の外に置く。北岸は開館時間から組む

このくぼみの中を1日で回るなら、泊まる場所は外に取ります。起点にした宿は、高速道路のインターチェンジのすぐ横にありました。箱根の中ではなく外側に泊まると、湖畔展望館が開く朝9時に合わせて北岸へ入れます。最終入館は16時30分。約500mの杉並木と90段の石段は、この時間の内側に収まります。

1日で見たのは、湖をつくった窪みと、その縁に立つ外輪山と、縁の内側に建てられた社です。宿を箱根の外に置いたのは、この窪みの中にいる時間を、移動ではなく見ることに使うためでした。

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この街の歩き方

恩賜箱根公園(湖畔展望館)9:00〜17:00・最終入館16:30/入園無料・15.9ha
恩賜箱根公園→元箱根(旧街道杉並木)約500m・国指定史跡
箱根神社 正参道の石段90段ほど
芦ノ湖周囲約20km・約3,100年前に成立
恩賜箱根公園 駐車場普通車 平日500円/休日1,000円