石造りの建物の入口。奥に真鍮の手すりの階段が見え、足もとに鉢植えが並ぶ。南船場に残る戦前の商社建築をイメージした生成ビジュアル(実際の現地写真ではありません)

南船場には、1930年に商社の大阪支店として建てられたビルが、いまも商業ビルとして使われています。そこから西へ歩いて南へ下ると、丁目のあとが番地ではなく「渡辺」になる住所に出ます。建物も地名も、移されたものが残って街の形になっています。ひとりで、宿を出てから午後の数時間をこの2か所に使いました。

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1930年竣工、三菱商事大阪支店。設計者はのちの三菱地所社長

大阪農林会館の公式サイトによれば、この建物は1930年(昭和5年)の竣工で、当初は三菱商事大阪支店として建てられました。設計は三菱合資地所部営繕課、設計者は藤村朗、のちに三菱地所の社長を務めた人です。施工は大林組でした。1949年の財閥解体にともなって売却され、いまの名前になっています。

2021年10月には国の登録有形文化財に登録されました。外観・内装ともに細部にかつての雰囲気が残っていると公式サイトは書いていて、実際、手すりの金属は冷たく、握ると跡が一瞬だけ曇ります。床は石のような素材で、歩くと音が上に響きます。

真鍮の手すりを握る手

真鍮の手すりを握る手。使われて上面だけが明るく光り、足もとは古いモザイクの床。使い込まれた手すりをイメージした生成ビジュアル

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事務所の区画が、そのまま店の区画になっている

住所は大阪市中央区南船場3丁目2番6号。御堂筋線の心斎橋駅①番出口から徒歩5分、堺筋線の長堀橋駅②番出口からも徒歩5分です。どちらの筋から来ても同じ距離で、公式サイトには館内を回遊することは可能と書かれています。

入ると、廊下に扉が並びます。アパレルの店やヘアサロンが入っていて、外から見ると普通のオフィスビルなので、中に入って初めて店があることが分かります。区画は四角く、扉の大きさがそろっています。商社の事務所として割られた区画に、あとから店が入ったので、店の形が建物の形に合わせてあります。

台湾にも古いビルを使った店の集まりがありますが、わたしが入ったところは壁を抜いて二区画を一つにしていました。ここは壁を抜いていません。扉の数だけ店があります。売っているものより先に、建物の割り方が目に入ります。

建物の中の廊下に服のラックが置かれている

建物の中の廊下に服のラックが置かれている。事務所の区画がそのまま店になり、人が品を見ている。事務所が店に変わった区画をイメージした生成ビジュアル

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南船場から久太郎町へ。1階の顔が、店から会社に変わる

西へ進んで南へ下ると、通りの1階が変わります。ショーウィンドウが減り、ビルの受付と社名の看板が増えます。人の流れも、買い物の速さから仕事の速さに切り替わります。歩いて数分のあいだに、買う街から働く街へ移ります。

着いた先の住所は、大阪市中央区久太郎町4丁目渡辺3号。坐摩神社の所在地です。丁目のあとが数字ではありません。公式の由緒によれば、これは旧社地の地名が現在地に移されたもので、全国の渡辺・渡部等の姓の発祥の地とされています。

オフィスの通りに朝の光が差す

オフィスの通りに朝の光が差す。スーツの人が立ち話をし、自転車が停めてあり、歩道に落ち葉が散る。一階の顔が会社に変わる通りをイメージした生成ビジュアル

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社は1582年に替地を命じられ、寛永年間にここへ移った

公式の由緒では、社は天正10年(1582年)、豊臣秀吉の大坂築城にあたって替地を命ぜられ、寛永年間に現在地へ遷座しました。御祭神は生井神・福井神・綱長井神・阿須波神・波比岐神の5柱で、あわせて坐摩大神と呼ばれます。起源は、神武天皇が即位されたときに御神勅により宮中に奉斎されたことにさかのぼるとされています。

移ったのは社だけではありません。旧社地の地名が一緒に移ってきて、いまの住所の表記になっています。街の区画に社が合わせたのではなく、社の名残のほうに住所が合わせています。商社の支店が建物として残っているのと、向きが同じです。この街では、用途が変わっても名前と形のほうが先に残ります。

開門は平日7時30分から17時30分、土日祝は7時30分から17時までです。本町駅15番出口から西へ一つ目の角を左に折れて徒歩3分、21番出口からなら東へ二つ目の角を右に折れて徒歩3分。夕方に回すなら、土日祝は17時で閉まることを先に見てください。

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焼物の神は末社にいる。例祭は7月23日

境内には末社の陶器神社があります。公式の年中祭儀には「7月23日 末社陶器神社例祭」と記され、せともの祭は7月21日から23日、開催時間は11時から20時です。

作る仕事のある街の境内に、焼物の神を祀る社がある。その並びだけを確かめて、境内を一周しました。器を見に来る日を選べるなら、この3日間に合わせると、街の側の日程に乗れます。

帰りに器を一つ買いました。手に持つと、思っていたより重いです。厚みがあって、釉薬のかかり方が均一ではありません。片側は指が滑り、反対側は少し引っかかります。底を上に向けると、削った跡が輪になって残っていて、その輪の内側だけがざらついています。均一でないことが、手で作られた証拠になります。

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この街の歩き方

大阪農林会館(中央区南船場3丁目2番6号)心斎橋駅①番出口/長堀橋駅②番出口から各徒歩5分
建物の来歴1930年竣工・2021年10月に国の登録有形文化財
坐摩神社(中央区久太郎町4丁目渡辺3号)本町駅15番出口から徒歩3分
坐摩神社の開門平日7:30〜17:30/土日祝7:30〜17:00
末社 陶器神社の例祭7月23日(せともの祭7月21〜23日・11:00〜20:00)

先に大阪農林会館を階ごとに歩き、そのあと坐摩神社へ向かいます。社は土日祝が17時に閉まるので、建物に長くいると間に合いません。焼物のほうから見たい人は、7月21日から23日のせともの祭に合わせてください。