横丁の立ち飲みのカウンターで、中年の夫婦が串を手に笑っている。ステンレスのバットに揚げたての串が並び、背後は塗装の看板と蛍光灯。大阪・新世界の横丁をイメージした生成ビジュアル(実際の現地写真ではありません)

1903年の第5回内国勧業博覧会の跡地に引かれた区割りが、いまも碁盤目の路地として残っている——通天閣87.5メートルの展望台から区割りを見下ろし、南北130メートルの横丁に下りて、新世界が来歴を石と区画で残していることをたどる記事。
新世界の始まりは明治36年(1903)、天王寺と現在の新世界一帯で開かれた第5回内国勧業博覧会です。跡地の西半分に初代通天閣と有料遊園地のルナパークが置かれ、そのときの区割りが今も路地の形に残っています。碁盤目の街と、南北130メートルの横丁。街が自分の来歴をどこに残しているかを見に、16時に妻と2人で宿を出ました。

01

恵美須町駅から徒歩3分。まっすぐな通りの正面に、108メートルの塔が立つ

通天閣まではOsaka Metro堺筋線の恵美須町駅から徒歩3分、JR新今宮駅からは徒歩6分です。商店街に入ると通りがまっすぐで、その正面に塔が見えます。歩いているあいだ、塔はずっと同じ位置にあります。

いまの塔は二代目で、高さは避雷針を含めて108メートル。初代は明治45年(1912)7月にルナパークのシンボルタワーとして建てられ、高さは約75メートルでした。二代目は昭和31年(1956)、地元住人の運動によって再建されています。

商店街には屋根がかかっていて、外の光が入るのは通りの両端だけです。近づくにつれて見上げる角度が急になり、屋根と看板のあいだから見えるので、歩く位置によっては塔の下半分が隠れます。明るいうちに通ると、灯りではなく骨組みのほうが見えます。

02

塔の足元の王将碑。昭和44年建立、追贈された王将位を顕彰している

骨組みを見上げながら、塔の足元まで歩きました。塔の下、浪速区恵美須東1丁目18番に王将碑が立っています。建立は昭和44年10月。碑が顕彰しているのは坂田三吉で、大阪市の案内によれば明治3年6月に堺市で生まれ、大正時代の将棋名人として鬼才と呼ばれ、昭和21年7月に77歳で没しました。昭和30年10月、日本将棋連盟から棋道最高の名人位と王将位を追贈されています。

碑が立ったのは没後23年、追贈から14年後です。この場所が選ばれた理由も、通天閣の下で顕彰するという形で碑に記されています。毎年7月には王将まつりが開かれ、将棋ファンが集まります。触れると石が冷たくなりはじめていて、彫りが深く、指の腹が縁に引っかかりました。

03

5階、87.5メートルの展望台から、碁盤目の区割りを見る

一般展望台は朝9時から21時45分まで、最終入場は21時15分です。料金は大人1500円、子ども800円(2026年9月30日時点)。展望台は階ごとに高さが違い、5階の「黄金の展望台」が87.5メートル、4階の「光の展望台」が84メートル、屋上の「天望パラダイス」が94.5メートルです。3階、高さ22メートルのフロアには新世界のジオラマが置かれています。

87.5メートルから見ると、路地が碁盤目に走っていることが分かります。区画が小さく、一区画あたりの建物の数が多い。歩いているときに感じる密度は、この区割りから来ています。

ある通りを境に、建物の高さと区画の大きさが変わります。博覧会の跡地に引かれた区割りと、その外側の差がここに出ています。暮れてくると、路地に明かりが一つずつ入りはじめました。

夕暮れ、高いところから真下を見下ろす

夕暮れ、高いところから真下を見下ろす。小さな街区が碁盤の目に詰まり、細いまっすぐな路地が直角に交わる。一区画が小さく、建物の数が多い区割りをイメージした生成ビジュアル

04

南北130メートル、約50軒の横丁へ。囲碁将棋クラブが軒に混じる

その明かりの一つに下りていきます。ジャンジャン横丁は浪速区恵美須東3丁目、南北130メートルのあいだに串カツ屋、どて焼き屋、囲碁将棋クラブなど約50軒が並びます。御堂筋線・堺筋線の動物園前駅からは徒歩3分です。

二人分ほどの幅のまっすぐな路地

二人分ほどの幅のまっすぐな路地。両側に正面を開けた串の店と、ガラス戸の奥に木札の棚が見える店。前後に進むしかない幅の横丁をイメージした生成ビジュアル

130メートルに約50軒。2人で並んで歩けるのは人が切れたときだけで、基本は前後に進みます。どちらかが店先で止まると、後ろがつまります。

将棋の駒を打つ音が聞こえました。囲碁・将棋の専門店が軒に混じっているので、音は店の中から出ています。通路が狭くて反響するため、どの店かは分かりませんでした。塔の足元の碑が顕彰している名前と、いま聞こえている音が同じ盤のものだということだけは分かります。

紙を敷いた金属の盆に、揚げたての串が大きさ違いで六本

紙を敷いた金属の盆に、揚げたての串が大きさ違いで六本。衣は粗い金色で、割れ口がぎざぎざに立っている。脇に黒い煮込みの小鉢と、その縁に渡した串。指先で割れそうな衣をイメージした生成ビジュアル

05

この街の歩き方

恵美須町駅 → 通天閣徒歩3分(新今宮駅からは徒歩6分)
一般展望台朝9時〜21時45分(最終入場21時15分)
展望台の高さ5階87.5メートル/屋上94.5メートル
動物園前駅 → ジャンジャン横丁徒歩3分
ジャンジャン横丁南北130メートル、約50軒