日が沈みかけた浜。濡れた砂が空の色をそのまま返し、沖に島の影と橋の線が浮かぶ。十月の江の島と浜をイメージした生成ビジュアル(実際の現地写真ではありません)
江の島の海水浴場は、片瀬東浜が7月1日から9月6日まで、片瀬西浜・鵠沼が7月1日から9月13日までしか開かない。10月に行くと海の家はなく、砂浜には砂と波しか残っていない。そのぶん、参道と砂浜の使い方が夏とはまるで変わる。
ぼくは夕方に2時間だけ空いていた。ひとりで、江ノ電の江ノ島駅から歩きはじめた。
江ノ島駅から徒歩3分。刑場のあとに寺が建ち、その横を電車が走る
龍口寺は江ノ電の江ノ島駅から徒歩3分。境内に五重塔が立っていて、神奈川建築物百選に選ばれている。2021年10月一日には、本堂1棟・山門1基・五重塔1基が藤沢市指定重要文化財(建造物)に指定された。
創建は延元年間(1336〜1340年)。日蓮の弟子の日法上人が日蓮聖人像を安置したのが始まりとする説がある。この場所はもともと龍の口の刑場で、日蓮が処刑されようとしたとき、江の島の方から大きな玉のような「ひかりもの」が飛んできて、斬首役人はおののきひれ伏したと伝えられている。処刑は中止になり、日蓮は佐渡へ流された。
塔の下に立つと、電車の音が聞こえる。ぼくの国では、こういう古い建物と線路のあいだには、たいてい何かが挟まる。ここでは挟まっていない。刑場のあとに寺が建ち、その横を電車が走る。順番に重なっただけで、整理されていない。
延亨4年の鳥居をくぐる。ここから参道の店が始まる
海のほうへ歩くと、青銅の鳥居が立っている。延亨4年(1747年)の創建で、いま立っているのは文政4年(1821年)の再建。市指定重要文化財で、両柱には再建に協力した寄進者の名前が記されている。200年ぶん、潮風を受けてきた鳥居だ。
くぐると江の島弁財天仲見世通り。江の島の入口から江島神社までの参道に連なる商店街で、旅館と飲食店と土産物店が並ぶ。10月の夕方も店は開いていた。ただ、呼び込みの声がない。開いているが、静かに開いている、という状態だった。
坂の勾配が途中から急になる。一度立ち止まって後ろを振り返ると、参道の下に海が入る。参道が海に向かって下っているからで、上りながら振り返るという動作が、この道に組み込まれている。

参道の店先に灯りがともる夕暮れ。品を見る二人、坂を下りていく人がいて、通りの先に海が見える。参道の店の並ぶ坂をイメージした生成ビジュアル
1206年、源実朝が鎌倉幕府の繁栄を祈って建てた社
江島神社の辺津宮は、建永元年(1206年)に源実朝が鎌倉幕府の繁栄を祈って創建した。いま建っているのは延宝3年(1675年)の再建で、昭和51年(1976年)に改修されている。片瀬江ノ島駅、江ノ島駅、湘南江の島駅のどの駅からも徒歩15分から23分だ。
本殿の前に、龍の口から水が出ている場所がある。「天女と五頭龍伝説」に由来した龍を祀った、江の島弁才天の龍の銭洗だ。ざるに小銭を入れて水にくぐらせる。水は冷たく、指先から冷えてくる。ざるを上げると、濡れた小銭が石の上で光った。
ここまで歩くと、島の並び順が分かる。陸側に刑場のあとと寺があり、島の入口に鳥居と参道があり、坂を上がったところに鎌倉幕府の祈願所がある。海に近い順ではなく、高さの順に並んでいる。

石の龍の口から細い水が落ち、下の水盤に受けられている。まわりの石は苔に覆われて濡れている。龍の口から水の落ちる手水をイメージした生成ビジュアル
片瀬江ノ島駅から徒歩5分。9月13日を過ぎた砂浜には何もない
片瀬西浜・鵠沼も片瀬東浜も、小田急江ノ島線の片瀬江ノ島駅から徒歩5分。どちらも遠浅で砂浜が広く、江の島と富士山を望む海岸だ。
夏の遊泳時間は午前9時から午後5時まで、土日祝と盆は午前8時からになる。その開設期間が終わると海の家はなくなる。10月の砂浜には、砂と波しかない。西日が正面から差していて、波の音以外の音がない。波が引いたあとの砂だけ、色が濃くなって残る。
砂は乾いていて、座っても服は濡れなかった。靴を脱いで足を入れると、表面は温いのに、少し掘ると冷たい。日が沈むと、海の色が橙から灰色に変わる。そのあいだが早い。

夕日の低い海岸。波が白く崩れ、砂の上を人と犬がゆっくり歩いていく。泳ぐ人のいなくなった浜をイメージした生成ビジュアル
日が沈んだら東浜へ移る。弁天橋が光の線になる
東浜からは江の島の輪郭と弁天橋が正面に入る。橋に灯が入ると、渡るためのものが、光の線として見えるようになる。用途と見え方が一致しない。
波打ち際まで歩いて水に触ると、思っていたより温かい。空気より水のほうに温度が残っている。
10月の江の島でできることは、夏とは別だ。泳ぐための浜ではなく、見るための浜になる。開設期間を外して来る意味は、そこにある。
この街の歩き方
| 江ノ電 江ノ島駅 → 龍口寺 | 徒歩3分 |
|---|---|
| 片瀬江ノ島駅・江ノ島駅・湘南江の島駅 → 江島神社辺津宮 | 徒歩15〜23分 |
| 小田急 片瀬江ノ島駅 → 片瀬西浜 | 片瀬東浜 / それぞれ徒歩5分 |
| 海水浴場の開設期間 | 片瀬東浜 7月1日〜9月6日/片瀬西浜・鵠沼 7月1日〜9月13日 |
| 夏の遊泳時間 | 午前9時〜午後5時(土日祝・盆は午前8時〜) |
寺と鳥居と参道を先に済ませて、日が沈む前に西浜へ出る。沈んだあとに東浜へ移れば、弁天橋に灯が入る時間に間に合う。開設期間を外した十月は海の家がないので、砂浜に座る前に飲み物を買っておくといい。
