鍋、ボウル、蒸し器、お玉。新品のステンレスが歩道から頭上まで積み上がり、光を受けていっせいに輝く。奥には道具の通りが続く。道具の通りをイメージした生成ビジュアル(実際の現地写真ではありません)
田原町の宿を出て歩いて回れる範囲に、食材の通りと惣菜の通りと道具の通りが、別々に立っている。魚と乾物ならアメ横、煮物や揚げ物ならおかず横丁、鍋と包丁ならかっぱ橋道具街。同じ台所の買い物が、通りごとにきれいに分かれている街だ。おれたちはゼミの合宿で八人、キッチン付きの部屋に一週間いた。初日はこの三本の通りを一日でつないだ。
銀座線で2駅。約500mに400店、アメ横は闇市から始まった
田原町駅は銀座線のG18、上野駅はG16で、間に稲荷町をはさんで2駅だ。上野駅を出ると、アメ横商店街は徒歩約1分で始まる。
台東区の観光情報では、約500mの中に400店舗あまりが軒を連ねる。海産物などの食料品、輸入雑貨、アパレル、化粧品店が混ざって並ぶ。乾物と魚の店は上野寄りにも御徒町寄りにも散っていて、端まで歩いて引き返すと同じ値札を何度も見る。
この通りは戦後の闇市が起源だ。上野駅の南側は飴を扱う屋台が多かったことから「アメヤ横丁」、御徒町側は進駐軍の物資販売店があったことから「アメリカ横丁」と呼ばれ、この二つが統合されて今の名前になった。食料品と輸入雑貨が同じ通りに混ざっているのは、その名残だ。
通路は人がすれ違うたびに肩が触れる幅で、八人で入ると店先で固まる。通りの端で二手に分かれた。

両側に鍋や乾物が積み上がった細い通り。鉢巻きの人が台車で段ボールを運び、白衣の料理人が歩き、店先では湯気の立つ鍋の脇で品物を整える人がいる。道具と乾物の通りをイメージした生成ビジュアル
上野から鳥越へ。表通りを外れると、店先が土産物から今日の夕飯に変わる
アメ横を南へ抜け、御徒町から蔵前の方向に歩く。おかず横丁は都営浅草線の蔵前駅から徒歩約9分。上野で目立っていた外国語の値札が消え、店先に並ぶものが土産物から今日の夕飯に変わる。
全長230mのおかず横丁。惣菜の店が並ぶのは、町工場で家族総出で働いていたから
おかず横丁は正式には鳥越本通商盛会で、鳥越一丁目の全長230mの通りだ。ほとんどが日用食料品を扱う店で、戦後まで東西に分かれていたのが昭和24年に一本化して今の商盛会になった。
なぜ惣菜なのか。台東区の説明では、かつて鳥越界隈には町工場が多く集まっていて、家族総出で忙しく働く人たちのために「ご飯さえ炊いておけばおかずには困らない」と惣菜店が軒を連ねた。観光客のためにできた通りではなく、働く家の夕飯を外に出すための通りとして始まっている。近所の人が今日の分だけ買いに来る通りだから、230mで足りている。
八人分を一度に頼むと、一軒で煮物が尽きる。何軒かに分けると、店ごとの味つけの濃さの違いがそのまま並ぶ。

大きな寸胴鍋が積み上がる道具の店先で、鍋のふたを手に取って眺める人がいる。舗道には落ち葉が吹き寄せられている。調理道具の店先をイメージした生成ビジュアル
かっぱ橋本通りは昭和通りから国際通りまで。約300mと約240mの商店街がつながる
鳥越から北へ上がると、かっぱ橋本通りに出る。この通りは昭和通りから国際通りまでを東西に結んでいて、もっとも上野寄りの約300mが商和会、道具街と浅草国際通りを結ぶ約240mが公西会で、こちらは大正7、8年頃の発足だ。
醤油、味噌、油、塩。調味料と日用食料品の店が続く。東西に歩いていくと、途中で南北に走るかっぱ橋道具街と交差する。この交差点を過ぎると、食べ物を売る店が急に減る。
約800mに170店超。道具の街になったのは大正元年
かっぱ橋道具街は南北約800m、170店以上。振興組合は厨房用品の商店街として日本最大だと書いている。田原町駅からは徒歩約5分だ。
鍋、包丁、食器、漆器、食品サンプル、コック服、看板、包装資材。店先に値札が出ているので、歩くだけで相場が頭に入る。
道具屋がこの一帯に集まり出したのは大正元年だ。かっぱ橋に数軒の道具商・古物商が生まれ、昭和20年の大空襲で全焼したあと、昭和22年に商工会ができ、昭和20年代後半に道具街として確立した。名前の由来には、近くの橋に雨合羽を干していたという説と、文化年間に合羽屋喜八が水はけの悪さを見かねて私財で掘割工事を始めたという説がある。明治43年には隅田川の決壊で大洪水。水に苦労してきた低地に、重い業務用の道具を大量に積む街ができた。
八人分の汁物を作れる両手鍋を一つ買った。道具街から宿までは徒歩約5分で、足りないものは翌日でも買い足せる。

銀色のバットに、煮魚、大根と人参の煮物、コロッケ、かき揚げが並ぶ。奥には厨房が見える。惣菜の売場をイメージした生成ビジュアル
道具街の北端から隅田川へ。浅草駅まわりで荷物を下ろす
道具街を北に抜けると、台東区立隅田公園が近い。浅草七丁目一帯の隅田川沿いの公園で、浅草駅から徒歩約5分。川べりを歩けて、対岸に東京スカイツリーが立つ。桜の木が多く、花見と花火大会の場所になる。
銀座線の田原町から見ると、浅草は隣の駅だ。買ったものを抱えて歩き通すより、道具街の北端で川に出て、浅草から一駅で宿に戻るほうが早い。
この街の歩き方
重い乾物と魚は上野駅から徒歩約1分のアメ横で先に片づけ、惣菜は当日分を鳥越で足し、道具は最後でいい。南北約800mの道具街を北へ抜ければ隅田公園と浅草駅に出るので、荷物を持って同じ道を引き返さずに済む。
| 銀座線 田原町→上野(稲荷町をはさんで2駅) | 2駅 |
|---|---|
| 上野駅→アメ横商店街 | 徒歩約1分 |
| アメ横商店街(通りの規模) | 約500m・400店舗あまり |
| 都営浅草線 蔵前駅→おかず横丁 | 徒歩約9分 |
| おかず横丁(通りの全長) | 230m |
| かっぱ橋本通り 商和会/公西会 | 約300m/約240m |
| 銀座線 田原町駅→かっぱ橋道具街 | 徒歩約5分 |
| かっぱ橋道具街(南北) | 約800m・170店以上 |
| 浅草駅→台東区立隅田公園 | 徒歩約5分 |
